2004年度 地理部会発表要旨

1.中国における「住宅の市場化」に関する回顧と展望

北京大学 柴 彦 威

 中国における「住宅の市場化」は、いわば、政府が従来の直接的介入(公有/供給)から間接的コントロール(私有/市場)へと役割を変ずるにともなって生じてきた現象である。しかしながら、これらの変化は、たんに「小さな政府」への後退を意味するものではなく、諸アクター間での新たなコントロール関係の創出を目論むものである。すなわち、政府にとって、政府―政府間関係、政府―住民間関係、住民―住民間関係など、諸アクターの間をいかに調整しつつ管理するのかという課題を生じさせた。本発表では、法整備、行政組織の改編を中心として、「住宅の市場化」の過程を整理しつつ、今後の展望について検討する。

2.中国における住宅開発の全国的動向

大分大学 土居 晴洋

 改革開放政策導入以後の中国の都市地域における住宅政策は三つの点から変容を迫られた。第一点は都市地域の人口増加である。経済成長に呼応するように増加する人口を収容するためには、住宅の量的拡大が必要であった。第二点、経済成長に伴う市民の生活水準の向上である。生活水準の向上は必然的に住宅の質的向上を要求する。第三点は経済運営における公的部門の縮小、民間部門の役割増大という国家的な動きである。これらの中国における近年の変化の影響を強く受け、都市地域における住宅政策や住宅開発の実態は大きく変化してきている。本発表では、全国および省単位の統計データなどを利用して、近年の中国における住宅開発の動向と地域的な差異について検討する。

3.中国における商品住宅の登場 -開発・建設・販売・管理の現状-

広島女学院大学 木本 浩一

 一九九〇年代以降、中国では「単位」住宅から住宅私有制度への移行がみられる。私的に「所有」されるようになった住宅について、現在、急速な体制整備とあいまって、それにともなう諸問題が噴出している。まず、建造物そのものの建築をめぐっては、建材の確保、工法など、旺盛な需要に対応し切れていない状況がある。第二に、販売と購入とを取り持つ、不動産業者など需給関係の確立に関わる問題がある。第三に、住宅の管理については、「小区」建設にみられるように、従来の組織との調整に関わる問題がある。さらに、それらの前提として、住宅地建設―市街地であれば再開発、郊外であれば住宅団地建設など―に関わる問題が浮上しつつある。本発表では、大連市を事例として、宅地開発を含め、住宅建設のプロセスを念頭におきつつ、上記諸問題についての事例報告を行う。